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Medical Service

血管内治療センター

ステントグラフト内挿術

ステントグラフト治療(人工血管内挿術)

ステントグラフトは、人体に馴染みやすい人工布を筒状に形成し、これにステントといわれるバネ状の金属を縫い付けた人工血管で、これを小さく圧縮してシース(鞘・さや)カテーテルの中に収納しておきます。シースは、口径7mm、長さ120cmほどのストロー状のチューブで、患者さんの太ももの付け根を4~5cm切開したところから動脈内に挿入します。シースの先端を動脈瘤のある部位まで進めたところで、収納してあったステントグラフトを動脈内に押し出します。

動脈内に放出されたステントグラフトは、ステント金属のバネ力と患者さん自身の血圧により拡張して血管壁の内側に張り付けられ、直接に縫いつけることなく固定されます。この方法だと、胸部や腹部を大きく切開する外科手術の必要はありません。大動脈瘤自体は切除されずに残りますが、ステントグラフトで覆われた瘤内には血流がなくなり、自然に小さくなる傾向がみられます。たとえ瘤が縮小しなくても、拡大しなければ破裂する危険性がなくなります。このように、ステントグラフトによる治療は外科手術に比べて切開部が小さく、身体への負担が極めて少ない低侵襲血管内治療といわれています。

もし、ステントグラフトが何らかの原因でズレた場合は、ステントグラフトと血管のすき間から血液が流れ込むようになり治療目的が失われます。この場合には新たにステントグラフトを追加するか、もしくは従来どおりの外科手術をすることになります。

日本で初めて承認されたステントグラフト - Zenith AAA® -

ステントグラフト機器については、腹部大動脈用が平成18年7月に厚生労働省より使用の認可が下り、通常医療として治療ができるようになりました。ゼニス(Zenith AAA®)は、米国企業製の腹部用ステントグラフトで、日本では全国の4病院で合計97人の患者さんが承諾のうえで治療を受けられ(多施設臨床治験という)良好な成績が報告されています。

しかし、治療を受けられることができるかどうかの条件は下記のように厳しく定められており、この治療法に習熟している医師による判断が必要です。

  1. 動脈瘤のある血管が極度に曲がっていないか
  2. 動脈瘤の近くから重要な臓器血管が枝分かれしていないか
  3. ステントグラフトを固定するための健康な大動脈部分が 2cm以上あるか

治療は原則として全身麻酔で行いますが、重症な呼吸器障害などがある場合には局所麻酔か腰椎麻酔でも可能です。レントゲン透視で観察しながら、脚の付け根にある動脈からカテーテルを挿入し、これを通して逆Y形になっているステントグラフトを動脈瘤の部位まで運んで固定し、手術を終了します。手術時間は麻酔も含めて3時間程度で、輸血の必要はほとんどありません。術後の痛みは軽く、手術翌日から動くことができ、食事もとることが可能です。通常では、術後1週間目に確認のための検査を受けたあと退院になります。

治療を受けられた患者さんのうちの約60%の方で、大動脈瘤は経過を追うごとに縮小してゆく傾向がみられます。

ステントグラフト内挿術の治療成績

腹部大動脈瘤

関連する10学会で構成されている日本ステントグラフト実施基準管理委員会が行っている追跡調査によると、腹部大動脈瘤のステントグラフト治療が開始された2006年から登録された3124例の治療成績は、手術死亡なし、入院死亡19例(0.6%)でした。一方、同時期に行われた開腹による外科手術の入院死亡率は1.7%とされており、ステントグラフト治療を受けられた患者さんの多くが治療前から「脳梗塞」、「心筋梗塞」あるいは「呼吸障害」などの重症疾患を併せ持っていたことを考え合わせると、この治療成績は大変良好であることがわかります。

胸部大動脈瘤

日本にステントグラフトが導入された2008年から同上委員会が集計した901例の治療例の入院死亡は24例(2.7%)であり、この成績は全国の専門施設で行われた外科手術の入院死亡率5.7%と比べて良好でした。しかもステントグラフト治療を受けられた患者さんのなかには治療前より複数の重症疾患を併せ持っており、このために侵襲の大きい外科手術を行うことが出来ないと言われていた方も多いことを考えると、ステントグラフト治療がいかに有用であるかがわかります。

胸部大動脈瘤(治療前) ステントグラフト治療後
胸部大動脈瘤(治療前) ステントグラフト治療後
ステントグラフト治療後の動脈瘤の縮小変化
術後 1 3 4 5
ステントグラフト治療後の動脈瘤の縮小変化 ステントグラフト治療後の動脈瘤の縮小変化 ステントグラフト治療後の動脈瘤の縮小変化 ステントグラフト治療後の動脈瘤の縮小変化 ステントグラフト治療後の動脈瘤の縮小変化

ステントグラフト治療の問題点と対応

ステントグラフト治療は比較的新しい技術であり、10年以上の長期間にわたる充分な追跡調査の実績がないため、治療後も引き続いて定期的に経過を見てゆく必要があります。

医療費については、腹部大動脈用が2007年4月に、胸部大動脈用が2008年7月に厚生労働省の認可を得て健康保険が受けられるようになりました。

日本でステントグラフトの使用が公認されてから数年しか経過しておらず、この治療を安全確実に実施できる病院は未だ限られています。とくに胸部大動脈瘤については、これまで厚生労働省の承認を受けた機種が少なかったため、病院毎に異なった治療機器が使用され、その治療成績は様々です。

このことから、ステントグラフト内挿術を希望される場合には、治療を受けられる病院において、これまでの治療経験数や治療成績についての説明を充分に聞かれるようお奨めします。また、関連10学会構成「日本ステントグラフト実施基準管理委員会」により、一定の実施基準を満たしていることを証明されているかどうか確認されるよう提案いたします。「ステントグラフト実施基準」の詳細についてはこちらをご覧ください。

戸田中央総合病院はステントグラフト実施基準を満たしています。

戸田中央総合病院はステントグラフト実施施設です

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