MCI・軽度認知症の治療
軽度認知障害(MCI)・軽度認知症の治療を行っています
【レカネマブ・ドナネマブ治療】
当院では、認知症の一歩手前の段階である軽度認知障害(以下、MCI:Mild Cognitive Impairment)と軽度認知症の患者さまを対象に、進行を抑えることを目的とした治療を行っています。アルツハイマー病の診断がついた場合のみ、抗アミロイドβ抗体薬「レカネマブ」「ドナネマブ」を使用することができます。

外来診療日 | 毎週 水曜日・金曜日 / 午後(完全予約制) ※第2・4水曜日は15時~ |
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最も多いアルツハイマー型認知症とその原因
MCIや認知症の原因として最も多いと考えられているのが、全体の約7割を占めるアルツハイマー型認知症です(※)。アルツハイマー病は、脳に「アミロイドβ」という異常なたんぱく質が蓄積し、神経細胞に影響を及ぼすことで発症・進行すると考えられています。現在では、MCIや認知症の早期の段階で治療を始めることで進行を抑えられる可能性があることが分かってきました。
進行を遅らせる新薬「抗アミロイドβ抗体薬」
抗アミロイドβ抗体薬はアミロイドβを脳から除去する作用を持ち、病気の進行を緩やかにする効果が期待されている新しい治療薬です。国内では、2023年に「レカネマブ(レケンビ®)」、2024年に「ドナネマブ(ケサンラ®)」が承認されました。(本剤はアルツハイマー病の進行を遅らせる効果のある薬であり、根治を目的とした薬ではありません。失われた記憶を取り戻す効能や認知機能が改善する効果はないことをご理解ください。)
一般名 | レカネマブ | ドナネマブ |
商品名 | レケンビ® | ケサンラ® |
投与方法 | 点滴 | 点滴 |
時間 | 1時間以上 | 30分以上 |
頻度 | 2週に1回 | 4週に1回 |
治療期間 | 原則1年半 (投与終了の目安なし) | 原則最長1年半 (投与開始後12ヵ月を目安に アミロイドβ除去が確認 できれば投与終了可能) |
MMSE(※1) | 22~30点 | 20~28点 |
レカネマブ・ドナネマブ治療は、厚生労働省の基準を満たす 当院を含む医療機関でのみ実施されております。(※2) |
投与対象となる方
レカネマブ・ドナネマブは、厚生労働省が定めた「最適使用推進ガイドライン」に基づき、対象となる患者さまの状態や検査結果などの厳格な基準を満たした場合に限り使用が許可されています。
- アルツハイマー病によるMCIもしくは軽度認知症の方
⇒MMSEがレカネマブ22~30点、ドナネマブ20~28点であること
- 身体的に投与が可能な状態である方
⇒MRI検査で脳の異常(脳の出血・炎症・腫瘍など)がないこと、また点滴治療に耐えられる全身状態であること
- アミロイドβの蓄積が確認されている方
⇒PET検査または脳脊髄液検査で、アミロイドβの陽性所見があること(当院では低侵襲であるPET検査を推奨しています)
投与適応の判断について
レカネマブ・ドナネマブの投与が実際に可能かどうかは、問診・診察、神経心理検査(認知機能を評価する検査)、画像検査、血液検査などの各種検査結果を踏まえ、当科にて最終的に判断いたします。閉所恐怖症がある、未破裂脳動脈瘤がある、開頭術の経験があるという方も適応になる場合があります。検査の結果、以下のような場合には適応外となりますので、あらかじめご了承ください。
適応外となる主なケース- 認知機能の低下の原因が、アルツハイマー病ではないと判断された場合
- 認知症の進行が中等度以上である場合
- MRIにて副作用のリスクが高い所見が認められた場合
- 薬剤の禁忌に該当する既往歴がある場合 など
診療の流れ
受診予約
(要紹介状・事前予約制)初 診
問診・診察、今後の検査説明、血液検査、心電図、レントゲン検査、MRI検査
精密検査(入院:3泊4日程度、または外来通院)
神経心理検査(認知機能を評価する検査)、画像検査(CT・脳血流検査・脳波検査・超音波検査など)、脳脊髄液検査
再 診
検査結果(レカネマブ・ドナネマブの適否)と今後の治療について説明初診~投与開始まで
1ヵ月~2ヵ月程度
1回目 レカネマブ・ドナネマブ投与(入院:1泊2日~2泊3日程度)
原則として副反応発現観察や追加検査のための短期入院2回目以降 レカネマブ・ドナネマブ投与(通院)
診療体制
外来診療日 | 毎週水曜日・金曜日/午後(完全予約制) ※第2・4水曜日は15時~ |
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担当医紹介

脳神経外科・脳血管内治療科
山崎 圭 Kei Yamazaki
- 東京女子医科大学足立医療センター脳神経外科助教
- 日本脳神経外科学会脳神経外科専門医・指導医
- 日本認知症学会認知症専門医・指導医
- 日本脳神経血管内治療学会専門医
- 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
- 日本神経内視鏡学会神経内視鏡技術認定医
- 日本頭痛学会認定頭痛専門医・指導医
- ボトックス実施講習修了医
- 認知症サポート医
- 脳卒中療養相談士
想像してみてください。自分の愛する家族・大切な友人が、ゆっくり…だけど会うたび確実にその姿が薄れていき、かつての記憶にすがりながら悲しみ、いら立ち、落ち込み、その姿を見ているだけしかできない。これがMCI(軽度認知障害)の方、認知症のご家族が直面している現実です。 MCIへの対処は日々進歩しています。自分事としてとらえなおす“新しい認知症観(※)”を広め、認知機能の低下を少しでも良くできるような“新しい治療”を届けられるように奮闘している脳外科医が戸田市にはいます。南部医療圏(戸田市/蕨市/川口市)で「ないものねだり」ではなく、地域資源をうまくつなぎ合わせる発想で連携を紡いでいく。住み慣れた地域で、どんな状態でも継ぎ目なく支えあえる「戸田モデル」を全国に誇れるまで醸成させていく…まだまだ道半ばですが、ゆっくりだけど着実に連携の輪が広がっています。 「気になるな、どうしよう」「でもこんなことで」医療機関への相談が大きな一歩につながります。お早めの受診を考えてみてください。 ※政府広報オンライン「そのイメージを変えていこう!新しい認知症観」(外部サイトに移動します) |
地域医療機関の皆さまへ
ご紹介の目安
下記のような患者さまについてレカネマブ・ドナネマブの治療適応を含めた精査を行っています。ご紹介いただく段階で薬剤適応の確定までは必要ございませんので、まずは以下を目安にご紹介ください。
☑ | 中等度、高度の認知症ではないと考えられる方 (以下の中等度以上の認知症の生活レベルをご参考にしてください) ▪中等度の認知症の生活レベル ・介助なしでは状況に応じた適切な洋服を選ぶことができない ・入浴時に説得することが必要なこともある ・金銭管理が難しくなる ・(主婦、主夫の場合)食事の支度が難しくなる ▪やや高度の認知症の生活レベル ・着衣が一人でできない ・トイレの排泄で失敗する ・入浴に介助を要する |
☑ | 認知機能検査(MMSE、HDS-R)スコアがおおむね20点以上の方 ※適応となるMMSEスコア:レカネマブ22~30点、ドナネマブ20~28点 |
☑ | アルツハイマー型認知症が疑われる方 |
☑ | ご本人およびご家族がレカネマブ・ドナネマブの治療への意欲を示されている場合 |
☑ | 通院に同伴するご家族や介護者がいる方 |
ご準備いただく書類
- 診療情報提供書(戸田中央総合病院 脳神経外科 山崎医師 宛) ※必須
- 神経心理検査結果(MMSE[PDF]、HDS-R など)※任意
- 画像所見・服薬情報 ※任意
- 問診票[PDF]※任意
- DASC-21(詳細版)[PDF]または DASC-21(簡易版)[PDF] ※任意(ご家族に記載をお願いしてください)
- 老年期うつ病評価尺度(GDS15)[PDF]※任意
患者さまのご紹介・ご相談は連携課へ
ご相談やご紹介に関するお問い合わせは、地域医療連携課までお問い合わせください。
ご紹介・お問い合わせ 📞048-442-1431(連携課直通) 平日:8:30~17:00/土曜:8:30~13:00 ※休診日除く 地域医療連携課 |
患者さまへ~受診について
まずは「かかりつけ医」にご相談ください
かかりつけ医をお探しの方へ
戸田市・蕨市 | 認知症・もの忘れ相談医リスト(一般社団法人蕨戸田市医師会) |
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川口市 | もの忘れ相談医リスト(一般社団法人川口市医師会/川口市在宅医療サポートセンター) |
よくある質問(Q&A)
かかりつけ医は日々の小さな変化にも気づいてもらいやすく、他の病気も含めた総合的な視点で診てもらえるため、早めの対応につながります。専門的な診察が必要と判断された場合には、詳しい検査や診断ができる病院への紹介状を用意してもらえます。
かかりつけ医がいない方、どの診療科に行けばよいか迷う場合は、全国に設置されている「認知症疾患医療センター」、「もの忘れ相談医」がいるクリニック、脳神経外科や脳神経内科、精神科などを受診するとよいでしょう。
また、当院では戸田市・蕨市の地域包括支援センターとも連携しております。お近くの地域包括支援センターまたは認知症地域支援推進員にご相談ください。
- 一番困っていること(例:買い物に行っても同じものを買ってきてしまう)
- 症状が始まった時期、きっかけ、生活の変化
- 今までかかった主な病気やケガ(既往歴)
- 現在の健康状態、飲んでいる薬(例:高血圧で〇〇を1錠内服)
一部の薬(睡眠薬・精神安定剤・抗ヒスタミン薬など)で認知症に似た症状を引き起こす場合もあります。お薬手帳や包装ごと持っていきましょう。
多くの場合はMRI検査で発見される軽度かつ無症状のもので、経過観察により自然に改善するケースがほとんどです。安全に治療が継続できるように、定期的にMRI検査を行い早期発見・対応を行っています。万が一症状が現れた場合は、緊急MRI検査により副作用の確認を行います。夜間休日は救急外来にてMRI検査対応させていただきます。
また、点滴注射の際に注入に伴う発熱、発疹、かゆみなどの反応(アレルギー反応)がみられることがありますが、必要に応じて解熱鎮痛薬や抗アレルギー薬で適切に対処し、安全な治療継続を心がけています。
実際の費用は、治療内容(診察や検査等)、患者さまの状態、年齢、所得、健康保険制度などによって異なります。詳細は当科外来にお問い合わせください。
薬剤名 | 負担割合 | 1ヵ月の患者負担額 | 高額療養費上限額(※3) |
レカネマブ(※1) 2週ごと/月2回 (70歳以上/体重50kgの場合) | 1割 | 22,888円 | 18,000円 |
2割 | 45,777円 | 18,000円 | |
3割 | 68,665円 | 適用無し | |
ドナネマブ(※2) 4週ごと/月1回 | 1割 | 初回:約7,000円 | 適用無し |
2回目:約13,000円 | 適用無し | ||
- | 3回目以降:18,000円 | ||
2割 | 初回:約13,000円 | 適用無し | |
- | 2回目以降:18,000円 | ||
3割 (※4) | 初回:約20,000円 | 適用無し | |
2回目:約40,000円 3回目:約60,000円 4回目以降:約80,000円 | 適用無し |
監修:戸田中央総合病院 脳神経外科 山崎 圭
関連診療科
